第155回 元気で長生き講座【2025年9月号】
~水分管理と除水速度、そして心臓にやさしい長時間透析~
1.透析患者さんと水分制限の基本
夏場は熱中症予防のため「こまめな水分補給」が推奨されています。しかし通常週3回の血液透析(HD: Hemodialysis)を受ける患者さんでは、必ずしも当てはまりません。透析関連国内トップジャーナル日本透析医学会誌の「慢性透析患者の食事療法基準」でも、HD患者さんにて水分は「できるだけ少なく」と記されています1)。腎臓が働かないために体内に水分がたまりやすく、HD時に一気に抜かなければならなくなると、身体に大きな負担がかかるからです。
2.透析間の体重増加の目安
透析のない日(非透析日)に体重がどれくらい増えるかは、生命予後(長生きできるかどうか)と深い関係があります。二日空き(週3回HDの場合週末の透析日金曜又は土曜→週初め透析日月曜又は火曜の間)の週初め(週3回HDの場合月曜又は火曜)は、DW(ドライウエイト:透析後目標体重・基準体重・乾燥体重・基礎体重)の4~6%、例えばDW60kgの方なら5%(3kg)前後の2.4~3.6kgまでの範囲に透析間体重増加量を収めることが理想です2)。中日(週3回HDの場合水曜又は木曜)もしくは週末(週3回HDの場合金曜又は土曜)の一日空きは、DWの2~4%、例えばDW60kgの方なら3%(1.8kg)前後の1.2~2.4kgまでの範囲に透析間体重増加量を収めることが理想です。以上の目標範囲内よりも増加量が多い場合には透析前高血圧や心不全のリスクが高まってしまいますので、発汗を伴う運動、塩分や水分摂取量の制限を、以上の目標範囲内よりも増加量が少ない場合には栄養は生命予後に対し大変重要ですので食事量を増やして頂くことをお勧めします!
3.除水速度(UFR: Ultrafiltration Rate)の重要性
透析間体重増加が多いと、HDで一度に多量の水を抜く必要が出ます。時間あたりの除水量を除水速度(UFR)と呼びます。
・UFR10mL/kg/時未満(例えばDW60kgの方なら1時間あたり6kg未満)が理想的3)。
・UFR13mL/kg/時(例えばDW60kgの方なら1時間あたり78kg)を超えると死亡リスクが1.3倍に増加する4)。
以上の報告から、例えば、DW60kgの方なら、一回のHDでDW迄除水を行う場合、4時間(5時間)透析の場合、透析間体重増加は2.4kg(3kg)迄が理想的で、6時間の長時間透析の場合、透析間体重増加は3.6kg迄が理想的で、一回のHDで、4時間(5時間)透析の場合、透析間体重増加の3.12kg(3.9kg)、6時間の長時間透析の場合、透析間体重増加の4.68kg以上一度に除水することになりますとHD中の血圧低下(透析低血圧)のリスクが高まり、死亡リスクが上がってしまうことが考えられます。二日空きの週初め(週3回HDの場合月曜又は火曜)はどうしても透析間体重が多くなりがちですので、透析間体重増加によっては、無理にDWまで一気に除水するのではなくDWより残し、週末迄にDWに到達することを目指す工夫も必要です。
4.なぜ血圧がHD中に下がるのでしょうか? ―プラズマリフィリング―
透析で水を引くと、まず血液中の水が減ります。これを補うために、組織の間の水(間質液)が血管内に移動します。この仕組みを プラズマリフィリング といいます。少量の除水であれば、リフィリングが追いつくため血圧は安定します。しかし、大量かつUFR高値の速い除水ではリフィリングが追いつかず、循環血液量が減り、急激な血圧低下(透析低血圧)につながります。これが全身の臓器の血液流量の低下をもたらし、心臓や全身の血管にダメージを蓄積させ、心不全や狭心症の原因となります。又、低アルブミン(Alb)血症や貧血も透析低血圧の原因となりうる為、摂取しても栄養にはなりにくい浮腫や高血圧の原因となる塩分や水分の取り過ぎに注意しながら、やはり蛋白質、ビタミン、亜鉛や鉄分等の充分な食事摂取も望まれます。
5.心臓にも良い「長時間透析」
心臓にも良い長時間透析をお勧めします。透析時間を長くすることで、同じ量の水を「ゆっくり」と除水できるため、UFRを低く抑えることができます。これが心臓に優しい最大の理由です。長時間透析は以下のような心臓への良い影響が過去の多くの報告が調査されたメタ解析にて報告5)されています。
心臓超音波検査における以下の良好な結果(全て改善)
・EF(左室駆出率, Ejection Fraction):心機能を示す最も代表的な指標で心臓の全身に血液を送り出す力 → 有意に上昇
・LVPWT(左室後壁壁厚, Left Ventricular Posterior Wall Thickness):心臓の壁の厚み → 有意に低下
・LVMI(左室心筋重量係数, Left Ventricular Mass Index):心臓の左室肥大の指標→ 有意に低下
実際に、長時間透析を行った群(18時間/週以上)ではEFが改善し、心臓肥大を示すLVPWTやLVMIが有意に減少したメタ解析結果が示されており、本院でも竹石康広臨床工学技士主任が長時間透析におけるEF上昇、LVPWT低下6)を第16回長時間透析研究会、浮腫(体液量・体水分量)と共にLVMIと同様に心臓の左室肥大を示す心電図所見の改善7)を第33回日本臨床工学会にて報告しております。さらに、日本透析医学会の統計調査結果でも、透析患者さんの死因の約3分の1は心疾患(心不全や心筋梗塞)であり、心臓を守ることは透析患者さんの生命予後に直結します。本院で行っております週4回以上の頻回透析が可能となる在宅血液透析(HHD)やオーバーナイト透析(深夜透析)も長時間透析やお仕事との両立(社会復帰)がしやすくなるため、お勧めします。
6.栄養・生活とのバランス
「水分を控えねば」と過度に気にすると、食事が楽しめず、栄養不足になることもあります。大切なのは、水分を控える+透析時間を長くしてゆっくり除水する両輪です。
・塩分も控えましょう→ HD患者さんにて1日6g未満が推奨1)されており、のどの渇きが減ることで水分摂取量も抑えられます
・発汗を伴う運動後は少量ずつ水分を補給し日々の体重(BW)を確認頂き、上記目標数値内の透析間体重増加量を目指しましょう
・栄養をしっかり確保し、透析時にゆっくりと時間をかけて水を引きましょう(除水)
・これらの工夫が、身体にも心臓にも負担の少ない生活につながります。
7.まとめ
水分摂取は「できるだけ少なく」が基本。
・透析間の体重増加は二日(一日)空きでDWの4~6(2~4)%を目標に。
・除水速度(UFR)が高いと心臓や血管に負担がかかり、死亡リスクが上昇する。
・透析時間を延ばし、ゆっくり除水する「長時間透析」が心臓保護につながる。
・栄養を保ちながら生活習慣を工夫し、「元気で長生き」を目指しましょう。
このように「水分制限」と「長時間透析」を組み合わせることで、心臓を守りながらより良い生命予後「元気で長生き」が実現できる透析生活を送ることができます!
参考・引用文献
1)中尾 俊之, 菅野 義彦, 長澤 康行, 他. 慢性透析患者の食事療法基準. 透析会誌 2014; 47(5):287-291
2)第64回元気で長生き講座(2017年4月号)~二日空きでのDWに対する体重増加率4~6%で最も生命予後良好です~
3)R Saran, J L Bragg-Gresham, N W Levin, et al. Longer treatment time and slower ultrafiltration in hemodialysis: associations with reduced mortality in the DOPPS. Kidney Int. 2006 Apr;69(7):1222-8. doi: 10.1038/sj.ki.5000186.
4)Jennifer E Flythe, Stephen E Kimmel, Steven M Brunelli. Rapid fluid removal during dialysis is associated with cardiovascular morbidity and mortality. Kidney Int. 2011 Jan;79(2):250-7. doi: 10.1038/ki.2010.383.
5)Paweena Susantitaphong, Ioannis Koulouridis, Ethan M Balk, et al. Effect of frequent or extended hemodialysis on cardiovascular parameters: a meta-analysis. Am J Kidney Dis. 2012;59(5):689-99.
6)第110回元気で長生き講座【2021年8月号】~心臓にも良い長時間透析をお勧めします~
7)第133回元気で長生き講座【2023年9月号】~心臓や体水分量管理の為にも週18時間以上の長時間透析をお勧めします~