第156回 元気で長生き講座【2025年10月号】
~SaluDi(サルディ)活用ガイド 【記録を続けることが治療につながる】〜
日々の健康管理で最も大切なのは、ただ測定することではなく、「記録し、振り返り、医療に活かす」ことです。そこでご紹介したいのが、PHR(Personal Health Record:パーソナル・ヘルス・レコード)アプリの SaluDi(サルディ) 1)です。
SaluDiは、体重・血圧・体温・血糖値といったバイタルサインを含む基本的な数値に加え、食事の写真や運動(歩数)、お薬の記録まで幅広く入力や記録ができるアプリです。数値の記録は自動でグラフや表にまとめられ、変化を一目で確認できます。パソコン(PC)・携帯電話・プリンタ・スキャナー・デジタルカメラや、PC用のキーボード・マウスなどの製品間のワイヤレス通信を、約10m程の範囲内で行う共通規格のBluetooth® (ブルートゥース)対応機器の各社の血圧計や体重計などと連携により、数値を自動で取り込むことも可能です。また、記録は医療機関と安全に共有できるため、医療機関で「一瞬の数値」だけを見るのではなく、日常の傾向を医師や医療スタッフと一緒に振り返ることができます。さらにPDFやCSV形式で出力して紙に印刷もできるため、スマートフォンが苦手な方もご使用可能です。オンライン診療にも対応しており、アプリ内でその他の医療機関連携設定より医療機関連携コードをご登録頂くことで、自宅で記録したデータをかかりつけ医療機関のPC画面で共有しながら診察を受けることもできます。お薬の記録は生活記録のお薬ノートの登録から行って頂きます。薬局で貰えるQRコードを読み込むことで簡単に内服薬を記録することが出来ます。主にスマートフォンでご使用頂くことになりますが、スマートフォンが紙の血圧手帳やお薬手帳の代わりになりますので、紙の手帳をお忘れになっても、診療に支障を来すことが無くなります。食事の記録は生活記録の食事ノートから写真撮影にて行って頂きます。栄養相談の際に、普段のお食事の内容を管理栄養士さんに写真で確認頂くことも可能になり栄養相談がより充実したものになることが期待できます。スマートフォンを持ち歩いて頂くことで、歩数計代わりになり、自動で歩数が記録されます。歩数と生命予後との関連が明らかとなっており2)、元気で長生きして頂く為にも引き続き歩いて頂くことをお勧めいたします。
本院は以前、PHRによる生活習慣病の改善を検討する東京女子医科大学糖尿病センターにいらした新宿の医療法人社団ライフスタイルともながクリニック糖尿病・生活習慣病センター院長朝長先生のご研究3)に協力し昨年国内糖尿病関連トップジャーナルに論文が掲載されました。研究自体は本院を含む多施設共同で行われたものであり、使用されたPHRアプリは「Welbyマイカルテ」です。この研究では、2型糖尿病患者172名を対象に24か月間(2年間)追跡し、主要評価項目として採血時から過去1、2ケ月間の平均血糖値を反映し、血糖コントロール状態の最も重要な指標されておりますHbA1c(ヘモグロビンA1c:血糖の指標)の変化を解析しました。透析患者さんの場合には貧血を認めている方が多くGA(グリコアルブミン)が主に用いられます。解析の結果、HbA1cの平均値は 7.34 → 6.91%と有意に改善し(P=0.008)、特に月15回以上記録を行った高頻度群では 7.33 → 6.77% と、より明確な改善が認められました。一方で、記録頻度の少ない群では有意な改善は見られませんでした。つまり、「どれだけ継続して記録できるか」が血糖コントロールに直結する可能性が示されたのです。
研究で用いられたPHRアプリは「Welbyマイカルテ」(以下、マイカルテ)でしたが、現在ご紹介している沢井製薬(株)の「SaluDi」も同じくPHRアプリです。両者は開発主体こそ異なりますが、目的と機能には共通点が多くあります。それは「患者さんが日常を記録し、それを医療者と共有することで、診療をより実りあるものにする」点です。マイカルテで示された効果は、PHRの仕組みそのものが持つ価値を証明するものであり、SaluDiもまたその実践を可能にするアプリの一つです。
つまり、マイカルテで得られた科学的エビデンスは、SaluDiの活用意義を裏づける根拠の一つとして位置づけられるのです。
「毎日入力するのは大変そう」と感じる方も多いと思います。しかし、最初から完璧を目指す必要はありません。血圧だけ、体重だけといった一項目から始めれば十分です。少しずつ習慣化していけば、自然と複数のデータがたまっていきます。
その記録を診察時に提示すれば、医師はあなたの日常の変化を踏まえた指導や処方の検討ができます。たとえば「この時期に血圧が上がっているのは食生活の影響かもしれない」「運動(歩数)を増やしたら血糖が安定した」といった因果関係を一緒に考えることができます。記録はあなたと医師をつなぐ“共通言語”となるのです。例えば、朝の血圧が高いことが判明した場合には朝の降圧剤を夕方内服に変更して頂くなど治療方針の見直しも可能となります。継続が必要な透析医療においても災害対策は重要です。災害時にもSaluDiをご活用頂けたとすれば安否やバイタルなどのご状況の確認が遠隔でも可能になることも考えられます。
朝長先生のご研究でも示されたように、記録を継続する人ほど成果が出やすいことがわかっています。SaluDiは、その「継続」を支えるツールです。小さな一歩を重ねていくことが、未来の大きな健康改善につながります。ぜひ積極的にご活用頂き、かかりつけ医療機関でも一緒にそのデータを振り返りましょう。
参考・引用文献
2)第136回元気で長生き講座【2023年12月号】(医療法人社団菅沼会 腎内科クリニック世田谷)
3)朝長 修・福田 正博・岩崎 晴美ほか. Personal Health Record(PHR)を24ヵ月間用いた糖尿病患者のHbA1cの変化. 糖尿病 第67巻第3号. P154-163, 2024.