人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
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菅沼院長の元気で長生き講座
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第157回 元気で長生き講座【2025年11月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

~「低栄養対策としての長時間透析」論文紹介し引き続き長時間透析をお勧めします~

 

透析治療に長く取り組んでおられる皆さまに、非常に示唆に富む論文を紹介します。

 

本院に長時間透析研究会前会長の金田先生と本院へご見学にお越し頂いた1偕行会城西病院の菱田学先生らによる「低栄養対策としての長時間透析」2は、長時間透析の臨床的意義を「栄養改善」の視点から整理したもので、日常透析を受ける患者さんにとっても実践的で価値の高い内容です。すでに長時間透析を導入されている方にも、改めてその生理的・臨床的な根拠を理解する助けとなるでしょう。

 

本論文では、4時間の短時間透析が多くの患者さんで低栄養や体重減少を招きやすいことを指摘しています。短時間透析ではしばしばカリウムやリン(P)値を下げるために食事制限が求められますが、栄養の元となる食事摂取量が減れば筋肉量や体力が低下し、生命予後不良が知られています。実際、日本の透析患者さんの8割以上は体格指数(body mass index :BMI24未満であり、潜在的な低栄養状態にあります。BMIは「体重(kg)÷(身長(m)×身長(m))」にて計算され、例えば体重60kg、身長170cmの場合、60÷(1.7×1.7=2.89)20.8です。本院の透析支援システムにて災害対策としても覚えておいて頂きたいDW(ドライウェイト:透析後目標体重・基準体重・乾燥体重・基礎体重)を元に自動計算されています。わが国の統計調査の結果、BMI2426の軽度肥満の方が最も生命予後良好が報告3されており、いかに痩せないよう体重を維持できるかが重要です。

 

透析治療が直接浄化できるのは血管内領域に限られます。Pの大部分は細胞外・骨など血管外コンパートメントにあり、これらを十分に除去するには「時間」が不可欠です。Elootらの報告4では、血液流量(QB)を一定にした条件下で、一回の透析時間を468時間と延ばすと、尿素窒素(UN)・P・β₂ミクログロブリン(β₂MG)の除去量がそれぞれ681%も増加(増加率UNP<β₂MG)を認め、時間延長が血液の浄化効率を大きく高めることを示しています。β₂MGが低値の患者さん程生命予後良好5も知られております。

 

長時間透析のもう一つの利点 ― ゆっくり除水し心臓を守る

 

長時間透析の利点は、栄養改善だけではありません。第155回元気で長生き講座【20259月号】5でも書かせていただきましたが、もう一つの重要な意義は「心臓にやさしい除水」ができることです。透析では体にたまった水分を取り除きますが、4時間透析で一度に23Lを抜くと、血液量の約半分に相当する水分を短時間で除くことになり、循環動態、心臓や血管に大きな負担がかかります。除水速度と予後について、DOPPS 研究6では除水速度(UFR)10 mL/kg/hr(体重60 kg4 時間透析であれば2.4 L の除水)以上,5 年間の多施設共同の前向き研究7では12.4 mL/kg/hr(体重60 kg4 時間透析であれば約3L の除水)以上の速度で除水した群で生命予後不良と報告されています。透析中の血圧低下は患者さんの透析生活を困難にするだけでなく、バスキュラーアクセスの血栓症、腎機能低下の促進、心血管イベント、生命予後不良などとの関連が報告8されています。時間をかけて透析を行えば、同じ増加量の水でもUFRを低く、ゆっくり除くことができ、体への負担が軽くなります。除水中に血圧が下がる透析低血圧の主な原因は、「血液中の水が減ったのに、組織からの補充(プラズマリフィリング)が追いつかない」ことです。血圧低下を防ぐには、除水速度を「血漿再充満(plasma refilling)」の速度に見合った範囲に抑えることが重要であり、その最も確実な手段が透析時間の延長です。長時間透析ではこの補充が自然に進むため、血圧が安定し、心臓への負担が軽減されます。

 

実際、週18時間以上の長時間透析を行った群では、心機能の改善や心臓肥大の縮小といった好結果が報告9されています。つまり、長時間透析は「低栄養を防ぐ治療」であると同時に、「心臓を守る透析」でもあります。時間を味方につけた治療が、より安心で長く続けられる透析生活を支えます。

 

実際の症例として、心疾患を合併した80歳代男性が紹介されています。この方は4時間のオンラインHDFUFR14 mL/kg/hr)で頻回に血圧低下を起こしていましたが、8時間透析に変更し、食事制限を撤廃したところ、アルブミン値は3.03.5 g/dLに改善。P・カリウム濃度も安定し、血圧低下はほとんど消失しました。患者自身も「こちらのほうが楽だ」と語り、長時間透析を継続する選択をされたといいます。こうした積極的な食事摂取を長時間透析でサポートする治療方針が、従来の4 時間透析と食事管理を基本とした治療方法と比べて、優れた生命予後と関連することが報告10されています。

 

この報告が示すように、**長時間透析は単なる浄化効率の改善策ではなく、「栄養介入の基盤となる治療法」**です。十分な尿毒素除去と除水をゆっくり行うことで、食事制限が緩和され食事摂取量を増やし、体重や筋肉量を維持でき、結果として生命予後の改善につながります。食事制限で体を削るより、時間をかけて栄養を支える―それが本論文の強いメッセージです。

 

長時間透析には依然として制度面・運用面の課題がありますが、著者らは「12時間延長するだけでも有益」と述べています。無理のない範囲で透析時間を見直すことが、今後の透析低血圧や低栄養対策の鍵となるでしょう。

 

<参考文献>

1) 第118回 元気で長生き講座【2022年5月号】

2)菱田 学,岡崎 雅樹,西堀 暢浩,他:低栄養対策としての長時間透析 ― 今日から実践可能な,透析患者の低栄養への根本的対策 ―.臨牀透析,39(12):1397–1404,2023.

3)中井 滋,井関邦敏,伊丹儀友,他:わが国の慢性透析療法の現況(2009 年12 月31 日現在).透析会誌 2011;44:1―36

4)Eloot S, Van Biesen W, Dhondt A, et al:Impact of hemodialysis duration on the removal
of uremic retention solutes. Kidney Int 2008;73:765―770

5)第155回 元気で長生き講座【2025年9月号】

6)Saran R, Bragg―Gresham JL, Levin NW, et al:Longer treatment time and slower ultrafi ltration in hemodialysis:associations with reduced mortality in the DOPPS. Kidney Int 2006;69:1222―1228

7)Movilli E, Gaggia P, Zubani R, et al:Association between high ultrafiltration rates and mortality in uraemic patients on regular haemodialysis. A 5―year prospective observational multicentre study. Nephrol Dial Transplant 2007;22:3547―3552

8)Shoji T, Tsubakihara Y, Fujii M, et al:Hemodialysis―associated hypotension as an independent risk factor for two―year mortality in hemodialysis patients. Kidney Int 2004;66:1212―1220

9)第133回 元気で長生き講座【2023年9月号】

10)Okazaki M, Inaguma D, Imaizumi T, et al:Impact of old age on the association between in―center extended―hours hemodialysis and mortality in patients on incident hemodialysis. PLoS One 2020;15:e0235900