人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

菅沼院長の元気で長生き講座
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腎内科クリニック世田谷
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〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

第136回 元気で長生き講座【2023年12月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~十分な歩行(非透析日40005000歩、出来れば1万歩/日以上)を含む運動や身体活動量増加をおすすめします~

 

第24回 元気で長生き講座(2013年11月号)でも紹介させていただいておりますが、本院は「しっかり食べて動いてしっかり透析」を推奨しています。栄養状態の良い方、筋肉量の多い方、透析量の多い方が長生きされているからです。「動く」すなわち運動は下表1のような様々な効果が言われています。運動継続により、心機能の改善、高血圧の改善、副交感神経の活性化に伴う便秘の改善、食欲亢進に伴う栄養状態や貧血の改善、内シャント血管を含む静脈血管の発達、不眠の改善、筋肉量の増加と脂肪の減少に伴う肥満の改善、糖尿病患者様では血糖値の低下等が期待されます。

 

 

韓国の国民健康保険のデータを使用し、200911日~20121231日までに健康診断に参加した心血管疾患のある1899歳までの100万人以上の個人(平均年齢62.6±11.3歳、女性49.6%)の身体活動と下気道感染症(LoRI)の関連を調査した報告2)があります。死亡率は2018年まで、入院は2019年まで追跡調査されました。身体活動量は自己申告式アンケートを使用して評価され、活動量の程度に合わせて5つのグループに分類されました。その結果、身体活動が増加し活動量が1段階上がる(グループが変わる)と、LoRIによる死亡率と入院がそれぞれ22%13%減少しました。ただし、この減少率は若年層よりも高齢層の方が高い結果となりました。つまり、心血管疾患患者では、たとえ低レベルの身体活動を行った場合でも、完全に座って過ごすよりも、LoRIによる死亡率や入院リスクの低下に寄与し、身体活動量の増加に伴って徐々にリスクが減少することが観察されました。

 

 

また、日本国内の血液透析患者202名における7年生存率に対する習慣的な身体活動と生命予後を調査した報告3では、身体活動時間(1日あたり50分未満および1日あたり50分以上)に応じた患者グループで84ヶ月間(7年間)の生存率を比較したところ、50/日以上のグループの患者は、50/日未満のグループの患者よりも明らかに生存率が有意に高い結果となりました。10分の歩行は1000歩に相当するとされていますので、50分の歩行は5000歩に相当し、5000/日以上歩行にて生存率良好も考えられます。

 

 

また、別の報告4では、200210月から20143月までに入院歴がある臨床的に安定した日本国内の血液透析患者282名(平均年齢65±11歳、45%が女性)にて、追跡期間(56か月)中に合計56人が死亡しましたが、死亡リスクが高い人を識別する身体活動のカットオフ値は3,752歩でした。それに従い、非透析日の歩数が4,000歩未満のグループと4,000歩以上歩くグループで生存率を調べたところ、4,000歩以上のグループの方が生存率は有意に高い結果となりました。

 

 

同報告では非透析日の一日あたりの歩数と生命予後との関係は、歩数が多ければ多いほど、生命予後良好で、寝たきりの方と比べ、非透析日の一日の歩数が40005000歩の方は約4050%、1万歩の方は約80%も、15000歩以上の方は約90%も患者背景で調整後の死亡リスク低下が示されていますので、非透析日の歩数40005000歩以上、出来れば115000/日を目標に歩行されることをおすすめします。

 

 

 

厚生労働省Webサイト5)に「日常生活において身体活動量を増やす具体的な手段は、歩行を中心とした身体活動を増加させるように心掛けることである。健康増進関連機器の中で、歩数計を実際に使用している者は20歳以上の16.7%を占め、特に中高年者では34人に1人が使用しており(平成8年度健康づくりに関する意識調査)、個人が取り組む目安としても、歩数の目標値を設定することは有用である。身体活動量と死亡率などとの関連をみた疫学的研究の結果6)からは、「11万歩」の歩数を確保することが理想と考えられる()。日本人の歩数の現状では、1日平均で、男性8,202歩、女性7,282歩であり、11万歩以上歩いている者は男性29.2%、女性21.8%である(平成9年度国民栄養調査)。最近10年間の歩数の増加傾向を考慮して、当面10年間の目標として、男女とも歩数の1,000歩増加を目指し、1日平均歩数を男性9,200歩、女性8,300歩程度を目標とする。1,000歩は約10分の歩行で得られる歩数であり、距離としては600700mに相当する。その結果11万歩以上歩く者は男性37%、女性30%になると見込まれる。歩くことを中心とした身体活動を増加させることにより、生活習慣病の発症の数%減少が期待できる。

 

(注)11万歩の根拠
海外の文献から週当たり2000kcal1日当たり約300kcal)以上のエネルギー消費に相当する身体活動が推奨されている6)。歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式を用いて、体重60kgの者が、時速4km(分速70m)、歩幅70cm、で10分歩く(700m1000)場合を計算すると、消費エネルギーは30kcalとなる。つまり1日当たり300kcalのエネルギー消費は、1万歩に相当する。

歩行時のエネルギー消費量を求めるためのアメリカスポーツ医学協会が提示する式7
水平歩行時の推定酸素摂取量(ml/kg/)=安静時酸素摂取量(3.5m/kg/)0.1×分速(m/)
この式によれば、体重60kgの者が、分速70m10分間歩くと、6300mlの酸素を摂取することとなる。これに「酸素1リットル当たりのエネルギー消費量=5kcal」の関係を当てはめると、約30kcalのエネルギー消費量に相当することが求められる。」

と記載されています。

とは言え、いきなり運動を始めるのはハードルが高いという方は、まずは無理のない量から開始し徐々に増やすようにし、心拍数がやや上昇する「ややきつい」と感じるレベルまでを目標に行い、腹筋などの筋トレの他、転倒に十分気をつけながら「よく歩く」事もお勧め致します。万歩計を活用しご自身の日々の歩数を確認頂き、歩数が徐々に増えることを目標にしても良いでしょう。

 

本院PCWelby(ウェルビー)社が提供する自己管理アプリ「マイカルテ」と連携しております。「マイカルテ」は、糖尿病や高血圧をはじめとする生活習慣病に取り組むために、自ら情報を得て、自ら行動し、自ら判断出来るスマートフォン用のアプリで患者様は無料でお使い頂けます。マイカルテは、スマートフォンにもともと備わっている歩数計(万歩計)機能を活かし、歩いた歩数を自動で取り込むことが可能です。アプリケーション、iPhoneでは「ヘルスケア」、androidでは「Google Fit」に記録されている測定結果との連携(歩数連携)が可能ですので、是非ご使用下さい。

 

 

参考

1)伊藤 修. 透析患者のリハビリテーション 現状と問題点】 運動療法の実際と効果. Journal of Clinical Rehabilitation 19巻6号. 2010.

2)H Jung, S.W Yi, S.J An, et al. Association of Physical Activity and Lower Respiratory Tract Infection Outcomes in Patients With Cardiovascular Disease. Journal of the American Heart Association. 2022. doi.org/10.1161/JAHA.121.023775.

3)R Matsuzawa, A Matsunaga, G Wang, et al. Habitual Physical Activity Measured by Accelerometer and Survival in Maintenance Hemodialysis Patients. Clin J Am Soc Nephrol 2012 ; 7: 2010–2016.

4)R Matsuzawa, B Roshanravan, T Shimoda, et al. Physical activity dose for hemodialysis patients: where to begin? Results from a prospective cohort study. J Ren Nutr. 2018 ; 28(1): 45–53.

5)厚生労働省Webサイト ホーム > 政策について > 分野別の政策一覧 > 健康・医療 > 健康 > 健康日本21 > 健康日本21(身体活動・運動 ) > 身体活動・運動

6)Paffenbarger RS Jr et al: Physical activity, all-cause mortality and longevity of college alumni. N Engl J Med 1986;314:605-613

7)American college of Sports Medicine: ACSM’s Guide lines for Excercise Testing and Prescription 5th Ed. williams & wilkins, 1995.