人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

菅沼院長の元気で長生き講座
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第153回 元気で長生き講座【2025年7月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~より良い生命予後が期待出来る改良された最新透析液「カーボスター透析剤2号」のご案内~

 

厚労省が患者様を勧めた過去があり本院でも「患者様」と記述して参りましたが、実際は近年「患者さん」の方が増加している傾向にあり、違和感やよそよそしさを減らしお互い対等な立場でありたいと考えまして、本院も変更したいと存じます。

 

腎内科クリニック世田谷では、8時間のオーバーナイト透析でも用いております個人用透析装置とセントラル方式の透析装置双方がございますが、来月を予定して透析液生成のための薬剤を、現在の「カーボスター透析剤」から「カーボスター透析剤2号」へ変更を開始いたします。先ずはセントラル方式の透析装置より変更予定です。「カーボスター透析剤2号」は株式会社 陽進堂が2025521日に発売したばかりの新しい人工腎臓用透析液です。この最新透析液は、これまでの「カーボスター透析剤」の開発コンセプトである透析中の血圧低下などの副作用が報告されております酢酸が一切含まれていない無酢酸のまま、高齢化が進む透析患者さんのニーズに応えるために改良されました。

 

近年、透析を受けている患者さんの平均年齢が上がっており1)、高齢化に伴って食事量が減ったり、食事内容が変わったりすることで、体重が減ってしまう低栄養が心配されています。摂取量の不足によって、体内のK(カリウム)やMg(マグネシウム)が足りなくなる「低カリウム血症」や「低マグネシウム血症」になるリスクが高まることが指摘されています。近年胃酸分泌抑制薬である胃薬のプロトンポンプ阻害薬(Proton pump inhibitorPPI)の投薬も増加しており、PPIによると思われるマグネシウム値低下を来してしまっている患者さんもいらっしゃいます。「低カリウム血症」や「低マグネシウム血症」は、不整脈の出現などにより、患者さんの長期的な健康や生命予後に影響を与える可能性があると考えられています 。

また、一般的に、体の代謝能力が低い高齢の方や体重の少ない患者さんでは、体が必要以上にアルカリ性になることに注意が必要であるとことも考えられます。

このような背景から、現在の透析治療のニーズに合わせて、より適切な透析液の選択肢を提供するために、「カーボスター透析剤2号」が開発されました 。

 

「カーボスター透析剤2号」は、従来の「カーボスター透析剤」と比べて、以下の点が変更されています:

 

①カリウム濃度を増加(02.5mEq/L: 高齢の患者さんで心配される低カリウム血症のリスクに対応するため、カリウムの配合量が見直されました。

②マグネシウム濃度を増加(01.5mEq/L: 同様に、低マグネシウム血症のリスクを考慮し、マグネシウムの配合量が増やされました 。

③重炭酸濃度を減少(3533mEq/L: 体が必要以上にアルカリ性になるのを防ぐため、重炭酸の配合量が調整されました。

 

但し、慢性腎不全患者さんでみられる体が酸性になる代謝性アシドーシスは栄養や骨の障害を来すとされており、その是正は重要であり①と②に比べますと調整量は僅かです。新しい透析液への変更により代謝性アシドーシスの是正が不十分となった場合には、透析量の増加やクエン酸が含有されているリン吸着薬や鉄剤の追加や代謝性アシドーシスを助長する可能性のある塩酸が含まれているリン吸着薬の減量などをご提案させて頂くことが考えられます。逆に新しい透析液への変更によっても、体が尚アルカリ性となっている場合にはクエン酸が含有されているリン吸着薬や鉄剤の減量もしくは他剤への変更や卵、魚、肉や大豆などの蛋白質の多い食事量の更なる増加をお勧めさせて頂きます。

 

これらの調整は、高齢化が進む透析患者さんの状態に、よりきめ細かく対応できるようにするためのものです。

 

「カーボスター透析剤2号」は、従来の透析液に比べてカリウム濃度、マグネシウム濃度が高めに調整されています。カリウム濃度は長らく2.0mE/Lの透析液が主流でしたが、特に透析が終わった後にカリウムが下がりすぎる可能性も懸念されており、配合量を増やすべきとの議論がなされてきました。過去の元気で長生き講座(第128回 【2023年4月号】)においても生命予後との関連から透析前カリウム55.5mEq/Lのやや高めの値を目標に果物、生野菜やナッツなどのカリウムの多い食事摂取や透析量増加をお勧めする記事を執筆しております。

 

マグネシウム濃度は、慢性腎不全患者さんでカリウムやリンの値と同様、腎臓からの排泄低下に伴い上昇することが知られており、以前は低めにした方が良いと考えられていました。しかしながら、血液透析患者さんでは血中マグネシウム値が低いよりも血中カリウム値と同様、透析前マグネシウム2.73mg/dLのやや高値の方の生命予後が最も良好であると報告2)され、血管の石灰化に関してもマグネシウム値を高めに維持した方が石灰化を抑制できるとの報告3)があり、長期的な生命予後を鑑みると従来透析液の低いマグネシウム濃度では不適切との意見が主流になってきています。実際私の日々の透析室における回診においても、カリウムやマグネシウム値低下を認め、カリウムや玄米、魚や大豆などのマグネシウムの多い食事摂取をお勧めすることが大変多くございますし、各社の新しい透析剤はカリウム濃度、マグネシウム濃度共に、従来よりも高い設定に変更されています。「カーボスター透析剤2号」においてもマグネシウム濃度が1.5mEq/Lへ引き上げられた事により、血管などの異所性石灰化や不整脈のリスクを減少させる事が期待できます。万一、血液中のカリウム、マグネシウム値が上昇し過ぎてしまう場合には、透析量の増加、カリウム低下薬の追加、カリウムを上昇させるお薬や現在本院で多数の患者さんに処方しております下剤の酸化マグネシウム内服量の減量などのご提案をさせて頂きたく存じます。便秘症に対しては、近年下剤の種類が増え選択枝も多く、腹筋やウオーキングなどの運動もお勧めいたします。逆に新しい透析液への変更によっても、尚低カリウム血症を認める場合には、内服されていた場合にはカリウム低下薬の中止や減量、カリウムの多い食事摂取、透析液流量の見直し、MR遮断薬スピロノラクトンなどのカリウムを上昇させるお薬の追加、尚低マグネシウム血症を認める場合には、下剤の酸化マグネシウムの追加や増量、内服されていた場合にはPPIの他の胃酸分泌抑制薬であるH2遮断薬への変更、マグネシウムの多い食事摂取などをお勧めさせて頂きます。

 

「カーボスター透析剤2号」は、皆様の透析治療において、より良い生命予後をもたらすことが期待出来る、元気でより快適な透析生活をサポートできるよう開発された新製品です。ご不明な点がありましたら、いつでも本院の医師やスタッフにご相談ください。

 

 

<参考文献>

1)正木 崇生, 花房 規男, 阿部 雅紀, ら. わが国の慢性透析療法の現況(2023年12月31日現在)日本透析医学会誌2024;57(12):543-620 DOI https://doi.org/10.4009/jsdt.57.543

2)Sakaguchi Y,Fujii N,Shoji T,et al:Hypomagnesemia is a significant predictor of cardiovascular and non-cardiovascular mortality in patients undergoing hemodialysis.Kidney Int 2014;85(1):174-181

3)Nakamoto H,Kobayashi T,Noguchi T,et al.: Recent Advances in Dialysis Therapy in Japan.Contrib Nephrol.Basel,Karger,2018,vol 196.