人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

菅沼院長の元気で長生き講座
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腎内科クリニック世田谷
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第128回 元気で長生き講座【2023年4月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~透析前カリウム(K55.5mEq/Lを目標にKの多い食事摂取や透析量増加をお勧めします~

 

健常者では野菜・果物の摂取が多い人の生命予後良好(長生き)が日本人9万人を対象とした前向き研究結果でも昨年報告1されており、健康食品とも言われていますが、腎機能が低下した保存期慢性腎臓病(CKD)患者様や血液透析(HD)患者様では、高カリウム(K)血症をきたす恐れがあるため、野菜・果物の摂取を控える指導が行われることがあります。Kは野菜・果物に多く含まれているためです。

 

実際、新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学講座の若杉三奈子特任准教授らの研究グループは、腎機能と野菜・果物の摂取調査にて、腹膜透析(PD)(PDの高いK除去効率が知られています)を受けていない人2,006(平均年齢69歳、男性55)を対象とした研究2で、解析対象者2,006人のうち、902(45)が保存期CKD131(7)HD患者で、CKDでない人では、約半数が野菜・果物を毎日摂取していましたが、腎機能が低下するほど、毎日摂取している人の割合は低下し、HD患者で毎日摂取していたのは28%のみの結果でした。野菜、果物別の解析では、果物の摂取頻度は腎機能が低下しても変わらず、HD患者でも88%が毎日果物を摂取していました。CKDステージ別では、野菜・果物の摂取頻度に関わらず血清K値は同程度でした。約6年間の追跡調査中に、561人が死亡しましたが、野菜・果物の摂取頻度が少ないほど、死亡リスクは増大していました。毎日摂取していた人に比べて、ときどき食べる人は1.25倍、ほとんど食べない人は1.6倍となっていたのです。日本の保存期CKDおよびHD患者でも、CKDのない人と同様に、野菜・果物の摂取が少ないと死亡リスクが高いことが示されたのです。実際、約8000人の成人のHD患者が対象となった研究でも野菜・果物の摂取が多いほど全死亡及び癌や感染症などの非心血管死亡が少ないことも近年報告3されています。野菜・果物には、K以外にも様々なミネラルやビタミン、食物繊維などが含まれているため、それらが複合的に健康に良い影響を与えている可能性が考えられます。

 

第36回元気で長生き講座(2014年11月号)では「透析前カリウム濃度は低すぎず高すぎず(55.5mEq/l未満)が理想です」と題した記事を書かせていただきました。20091231日現在の日本透析医学会統計調査「わが国の慢性透析療法の現況」4にて、透析前血清K濃度56mEq/Lで最も生命予後良好(長生き)でした。この傾向は透析量による補正ではほとんど変化しませんでしたが、各種栄養関連因子による補正により、その傾向は減少している事から、栄養状態に関係していたことが示唆されます。高い透析前K濃度は、重篤な致死的不整脈や頓死(心臓突然死)の重要な原因のひとつとされ、果物や生野菜等のK制限を行っている方がいらっしゃると思いますが、統計調査の結果からも低K血症は、不十分な食事摂取量など不良な栄養状態を介して、生命予後悪化の可能性が考えられますので、K値によっては、十分なKの多い食事を摂取頂く必要が示唆されます。

 

Kは野菜や芋類などの植物性食品をはじめ、蛋白源となる肉、魚、卵、大豆製品など様々な食品に豊富に含まれています。低K血症にならないためにKを多く含む食品を紹介します(下表)。エネルギー、糖質量、水分量も記載しましたので、目的に合わせて選んでください。生の果物はKを多く含みます。ドライフルーツなどの乾物類は水分が抜けている分、少量でもK量が多くなりますが、糖分が多くなります。血糖値を下げる糖尿病治療を行っている場合や高度の肥満を認める場合は、量の加減が必要になります。きのこ類では、他の種類と比べてエリンギに多くKが含まれています。濃縮タイプの野菜ジュースは少ない水分量でKが多く含まれます。菅沼のいとこがカゴメに勤めています。カゴメの「超濃縮」シリーズは、1パック125mLと少量ですが、水分と糖分も少ない製品です。透析間体重増加が気になり、水分量を控えたい方にもおすすめです。

 

出典:日本食品標準成分表2020年版(八訂)

 

菅沼の出身である長野県は日本で長寿No1に輝いた県です。これは野菜の摂取量が日本一であること、またKを多く含む果物のリンゴの生産量が日本第2位であることに起因していると思われます。リンゴが健康に良いことは、第117回元気で長生き講座(2022年4月号)に書かせていただいております。野菜・果物にはビタミンCも多く含まれています。松田昭彦先生は、論文「PD患者のエリスロポエチン抵抗性貧血に影響する因子の検討」5)にて、多量の造血ホルモン製剤投与でも貧血改善が不十分であったPD患者様に対し、ビタミンC(の錠剤が医薬品としてもあり)投薬を行った結果、有意に貧血が改善し、体内に貯蔵されている鉄量の指標であるフェリチン値が有意に低下した事を報告しておられます。透析患者様における貧血も造血ホルモン製剤投与量も生命予後との関連(ヘモグロビン:Hb1012g/dLかつ造血ホルモン製剤投与量が少ない透析患者様の生命予後良好)が報告されています。果物や野菜に含まれるビタミンCは鉄の利用を促進し、貧血改善効果が期待されます。

 

以上より、Kの多い食事摂取がお勧めですが、注意点もあります。高K血症は心停止を起こしやすい致死的不整脈の原因となるためです。このことからも高血液流量透析や長時間透析などの「しっかり透析」実施が望まれます。生命予後との関係からは透析前K濃度は低すぎず高すぎず(55.5mEq/L)が理想ですので、5未満の方はKの多い果物や生野菜をしっかりと摂取頂き6 mEq/L以上の方は、経口のK低下薬もございますが、特にKの除去に有効な本院でも実施しております在宅透析(PD:腹膜透析/HHD:在宅血液透析)やオーバーナイト(深夜)透析を含む長時間透析実施をお勧め致します!

 

参考文献

1)Sahashi Y, Goto A, Takachi R, et al. Inverse Association between Fruit and Vegetable Intake and All-Cause Mortality: Japan Public Health Center-Based Prospective Study. J Nutr. 2022; 152(10):2245-54. doi: 10.1093/jn/nxac136.

2)M Wakasugi, A Yokoseki, M Wada, et al. Vegetable and fruit intake frequency and mortality in patients with and without CKD: A hospital-based cohort study. Journal of Renal Nutrition 2023; doi 10.1053/j.jrn.2023.01.011

3)Saglimbene VM, Wong G, Ruospo M, et al. Fruit and Vegetable Intake and Mortality in Adults undergoing Maintenance Hemodialysis.
Clin J Am Soc Nephrol.2019;14(2):250-60. doi: 10.2215/CJN.08580718.

4)日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況(2009年12月31日現在).日本透析医学会, 2010 http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2010/p066.pdf

5)松田 昭彦, 河野 里佳, 山城 真理, et al. PD患者のエリスロポエチン抵抗性貧血に影響する因子の検討. 腎と透析63巻別冊 腹膜透析2007; 192-194.