第167回 元気で長生き講座【2026年10月号】
~高い免疫応答が期待され、一部の副反応にも配慮された新しい新型コロナワクチン「エムネクスパイク」の接種をお勧めします~
新型コロナウイルス感染症は、まだ終わっていません
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、流行の波を繰り返しながら現在も流行が続いています。
厚生労働省が公表している2026年の発生状況では、東京都でも9月に入ってCOVID-19の患者報告が続いています。【文献1】
COVID-19は、多くの方では軽症で済む一方、高齢者や基礎疾患をお持ちの方では、重症化や入院につながる可能性があります。【文献2】
特に、慢性腎臓病(CKD)の患者さん、そして透析患者さんは、新型コロナウイルス感染症に十分注意する必要があります。【文献2・8】
透析患者さんは、COVID-19の重症化に特に注意が必要です
腎臓病の患者さんでは、免疫機能の低下やさまざまな合併症などにより、感染症に対する抵抗力が低下していることがあります。【文献2】
厚生労働省が紹介しているオミクロン株流行期の研究では、60歳を超える患者さん1,377人を対象とした多施設研究において、慢性腎臓病(CKD)は重症化と関連する重要な基礎疾患であり、調整オッズ比(OR)は**3.978(95%信頼区間 1.595–9.922)**と他の基礎疾患と比較しても最も高値が報告されています。【文献2】
また、別の研究では、**CKDステージ4~5(GFR 30 mL/min/1.73m²未満、または透析患者)では、重症COVID-19のリスクが3.21倍(95%信頼区間 1.45–7.27)**と報告されています。【文献2】
さらに、透析患者を対象とした研究では、オミクロン株流行期において、ワクチン接種歴のある患者では感染や入院のリスクが低く、特に3回目接種後では入院リスクのさらなる低下が認められています。【文献8】
したがって、透析患者さんにとっては、
「感染しないこと」だけでなく、「感染した場合に重症化しないこと」
を考えて、ワクチンによる予防を継続することが大切です。【文献8】
新しいワクチン「エムネクスパイク」が登場しました
2026年9月から、日本でも新しいmRNAワクチン
「エムネクスパイク®筋注シリンジ12歳以上用」
の販売が開始されました。【文献3】
エムネクスパイクは、モデルナ社が開発したmRNA-1283という次世代型の新しいmRNAワクチンです。【文献3・5】
現在、日本で使用される2026年度のエムネクスパイクは、現在の流行状況を踏まえオミクロン株XFGを抗原株としています。【文献3・4】
このワクチンの大きな特徴は、従来のmRNAワクチンとは異なる設計にあります。
SARS-CoV-2のスパイクタンパク質のうち、免疫反応を起こすうえで重要な**受容体結合部位(RBD)とN末端部位(NTD)**をコードするmRNAを用いています。【文献3・5】
また、1回の接種量はわずか0.2mL(ファイザー製ワクチンは1.5倍の0.3mL)で、mRNAを10μgのみ含有しており【文献3】、疼痛が少ないことが期待出来ます。
このように、従来のmRNAワクチンとは異なる設計と用量が採用されていることも、エムネクスパイクの特徴の一つです。【文献3・5】
エムネクスパイクの効果は期待できるのでしょうか?
「新しいワクチンだけれど、本当に効果があるの?」
そう思われる方も多いと思います。
これについては、海外で行われた大規模な第Ⅲ相臨床試験「NextCOVE試験」の結果が報告されています。【文献5】
この試験では、11,454人を対象として、mRNA-1283と従来型の同じモデルナ製mRNA-1273ワクチンを比較しました。
COVID-19発症予防効果について、mRNA-1283はmRNA-1273に対して非劣性を示しました。【文献5】
さらに注目されるのが、ワクチン接種後の中和抗体反応です。
オミクロンBA.4/BA.5に対する中和抗体の幾何平均濃度比(GMR)は、
1.3倍(95%信頼区間 1.2–1.5)
D614G変異株に対しては、
1.2倍(95%信頼区間 1.1–1.4)
となり、mRNA-1283の方が高い抗体応答を示しました。【文献5】
つまり、
「従来型ワクチンと少なくとも同等以上の免疫応答が期待でき、特に中和抗体反応では高い結果が示されました」【文献5】
副反応についても、うれしい特徴があります
ワクチン接種では、効果だけでなく副反応も気になるところです。
NextCOVE試験では、全身性の副反応はmRNA-1283とmRNA-1273で概ね同程度でした。【文献5】
一方、接種部位の痛みについては、
・mRNA-1283:68.5%
・mRNA-1273:77.5%
であり、mRNA-1283の方が少ない結果でした。【文献5】
したがって、
「全体として安全性・忍容性は良好で、接種部位の痛みについては少ないことが報告されている」
ことがエムネクスパイクの特徴の一つです。
ファイザー製ワクチンから変更する「交互接種」にもデータがあります
「今までファイザー製ワクチンを接種してきたけれど、次はモデルナ製に変更してもよいのでしょうか?」
この点についても、日本人を対象とした興味深い研究があります。
日本で行われた大規模な後ろ向きコホート研究では、ファイザー製BNT162b2を2回接種した154,925人を対象として、その後の追加接種について調べています。【文献7】
そのうち、
・BNT162b2(ファイザー)追加接種:62,586人
・mRNA-1273(モデルナ)追加接種:51,490人
・追加接種なし:40,849人
でした。【文献7】
ファイザー製ワクチンを追加接種した群を基準に比較すると、モデルナ製mRNA-1273を追加接種した群の感染リスクは、
ハザード比(HR)0.62(95%信頼区間 0.50–0.74)
でした。【文献7】
これは、ファイザー製ワクチンを2回接種した後に、異なるメーカーのモデルナ製mRNAワクチンを追加接種する**「交互接種」について、感染リスクの低下が観察された**ことを示す研究結果であり、ファイザー製から別のmRNAワクチンへ変更する交互接種について、日本人を対象とした大規模な有効性データが存在することは、知っておいてよいでしょう。
実際の医療現場でも、入院予防効果が報告されています
さらに最近では、2025~2026年シーズンの米国において、65歳以上の高齢者を対象としたリアルワールドデータも報告されています。
この研究では、
・mRNA-1283接種者:233,072人
・BNT162b2接種者:422,610人
が解析されました。【文献6】
65歳以上におけるCOVID-19関連入院に対するワクチン有効性(aVE)は、
・mRNA-1283:59.3%(95%信頼区間 39.0–72.9)
・BNT162b2:48.3%(95%信頼区間 32.4–60.5)
と報告されました。
75歳以上では、
・mRNA-1283:66.9%
・BNT162b2:45.9%
と報告されています。【文献6】
それぞれのワクチンについて、別々に「未接種群」と比較してワクチン有効性を算出した研究であり、2025~2026年シーズンの実際の医療現場において、mRNA-1283が65歳以上の高齢者におけるCOVID-19関連入院を減らす効果を示したことは、注目すべきデータです。【文献6】
これまでと同じワクチンではなく、新しいワクチンを選ぶという考え方
これまでファイザー製ワクチンを何回も接種してきた方の中には、
「次も同じワクチンでいいのかな?」
と考える方もいらっしゃると思います。
もちろん、ファイザー製ワクチンにも十分な有効性があります。
そのうえで、現在は新しい世代のmRNAワクチンであるエムネクスパイクも選択肢になりました。
エムネクスパイクには、
- 新しいmRNA設計【文献3・5】
- 2026年度に使用されるXFG対応抗原【文献3・4】
- 従来型mRNA-1273と比較して非劣性が確認された発症予防効果【文献5】
- mRNA-1273と比較して高かった中和抗体応答【文献5】
- mRNA-1273との比較で接種部位の痛みが少なかったという臨床試験結果【文献5】
- 65歳以上の高齢者を対象とした実臨床研究で報告されたCOVID-19関連入院に対する有効性【文献6】
などの特徴があります。
65歳以上などの方には、世田谷区の公費助成があります
世田谷区では、2026年10月1日から2027年3月31日まで、高齢者を対象とした新型コロナワクチンの定期接種が行われます。
対象となるのは、主に、
① 接種日時点で65歳以上の方
または、
② 接種日時点で60~64歳で、心臓・腎臓・呼吸器・免疫機能に身体障害者手帳1級相当の障害がある方
です。
自己負担額は、
3,500円(1回のみ)
です。【文献4】
生活保護、中国残留邦人等支援給付を受けている方は無料です。【文献4】
世田谷区の2026年度の使用ワクチン一覧には、ファイザー製「コミナティ」、モデルナ製「エムネクスパイク」、第一三共製「ダイチロナ」、武田製「ヌバキソビッド」、Meiji Seika ファルマ製「コスタイベ」が掲載されており、エムネクスパイクはオミクロン株XFG対応ワクチンとして記載されています。【文献4】
なお、実際にどのワクチンを使用するかは医療機関によって異なりますので、接種前に確認してください。【文献4】
本院では、ファイザー製「コミナティ」または、新しいモデルナ製「エムネクスパイク」の接種が可能です。
腎内科クリニック世田谷でも、エムネクスパイクの接種を開始します
本院でも、2026年10月よりエムネクスパイクの接種を開始します。
公費助成の対象にならない方については、本院では自費接種として、
15,300円(税込)
で接種を行います。
これまでファイザー製ワクチンを接種してきた方も、今回からエムネクスパイクへ変更することが可能です。
接種について不安や疑問のある方は、診察時にお気軽にご相談ください。
透析患者さんには、エムネクスパイクをおすすめします
私が今回、特に透析患者さんにエムネクスパイクをおすすめしたいと考えている理由は、単に「新しいワクチンだから」ということではありません。
透析患者さんは、COVID-19が重症化するリスクが高い集団です。【文献2・8】
だからこそ、
「できるだけ高い免疫応答を期待できるワクチンを選ぶ」
という考え方には意味があると思います。
エムネクスパイクは、従来型mRNA-1273ワクチンとの第Ⅲ相試験で発症予防効果の非劣性が確認され、さらに中和抗体応答では高い結果が示されています。【文献5】
また、mRNA-1273との比較で接種部位の痛みが少なかったことや、2025~2026年シーズンの高齢者における実臨床データでCOVID-19関連入院に対する有効性が報告されていることも、注目すべき点です。【文献5・6】
「新しい設計によるワクチンで、従来型ワクチンと同等以上の効果が期待でき、免疫応答については高い結果が報告されている」
ことは、透析患者さんがワクチンを選択する際の重要な情報になると考えています。【文献3・5・6】
COVID-19を完全になくすことはできませんし、感染症予防は大変重要であり、
「しっかり食べて、しっかり動いて、しっかり透析」
を続けながら、ワクチンによる感染症対策も取り入れ、
「元気で長生き」
を目指していきましょう。
<参考文献>
【文献1】
厚生労働省.新型コロナウイルス感染症に関する報道発表資料(発生状況).2026年.2026年9月29日.
【文献2】
厚生労働省.新型コロナウイルス感染症の臨床像、治療.
関連文献:
Lu G, et al. Clinical characteristics and risk factors for severe disease in patients with COVID-19 during the Omicron variant period. Emerging Microbes & Infections. 2022;11:2045-2054.
Chen X, et al.Chronic kidney disease and severe COVID-19 during the Omicron variant epidemic. Emerging Microbes & Infections. 2022;11:2501-2509.
【文献3】
独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA).
エムネクスパイク筋注シリンジ12歳以上用.医療用医薬品情報.添付文書,2026年8月改訂(第2版).
一般名:コロナウイルス(SARS-CoV-2)RNAワクチン.
製造販売元:モデルナ・ジャパン株式会社.
販売開始:2026年9月.
抗原株:SARS-CoV-2オミクロン株XFG.
【文献4】
世田谷区.高齢者新型コロナウイルス感染症予防接種.2026年9月28日最終更新.
令和8年度(2026年度)定期予防接種:2026年10月1日~2027年3月31日.
自己負担額:3,500円(1回のみ).
対象者、使用ワクチン等について掲載.
【文献5】
Chalkias S, Dennis P, Petersen D, Radhakrishnan K, Vaughan L, Handforth R, Rossi A, Wahid R, Edwards DK, Feng J, Deng W, Zhou H, De Windt E, Urdaneta V, Paila Y, Girard B, Faust SN, Walsh SR, Cosgrove CA, Miller J, Das R. Efficacy, immunogenicity, and safety of a next-generation mRNA-1283 COVID-19 vaccine compared with the mRNA-1273 vaccine (NextCOVE): results from a phase 3, randomised, observer-blind, active-controlled trial. The Lancet Infectious Diseases. 2025;25(11):1230-1242. doi:10.1016/S1473-3099(25)00236-1. PMID: 40639387. ClinicalTrials.gov identifier: NCT05815498.
【文献6】
Vicic N, Bogdanov A, Hensler H, Ryan T, Zeng N, Beck E, Patry E, Bonafede M, Araujo ABA, Wilson A. Interim Effectiveness of 2025-2026 mRNA-1283 and BNT162b2 COVID-19 Vaccines Against COVID-19-Related Outcomes Among Adults Aged ≥65 Years in the United States. Infectious Diseases and Therapy. 2026;15(9):2307-2318. doi:10.1007/s40121-026-01395-4. PMID: 42340584. PMCID: PMC13476419.
【文献7】
Ono S, Michihata N, Yamana H, Uemura K, Ono Y, Jo T, Yasunaga H. Comparative Effectiveness of BNT162b2 and mRNA-1273 Booster Dose After BNT162b2 Primary Vaccination Against the Omicron Variants: A Retrospective Cohort Study Using Large-Scale Population-Based Registries in Japan. Clinical Infectious Diseases. 2023;76(1):18-24. doi:10.1093/cid/ciac763. PMID: 36124762. PMCID: PMC9494390.
【文献8】
Ashby DR, Caplin B, Corbett RW, Asgari E, Kumar N, Sarnowski A, Hull R, Makanjuola D, Cole N, Chen J, Nyberg S, Forbes S, McCafferty K, Zaman F, Cairns H, Sharpe C, Bramham K, Motallebzadeh R, Anwari K, Roper T, Salama AD, Banerjee D; pan-London Covid-19 renal audit groups. Outcome and effect of vaccination in SARS-CoV-2 Omicron infection in hemodialysis patients: a cohort study. Nephrology Dialysis Transplantation. 2022;37(10):1944-1950. doi:10.1093/ndt/gfac209. PMID: 35767848. PMCID: PMC9278226.
