第164回 元気で長生き講座【2026年7月号】
~肺炎球菌ワクチンで肺炎を予防しましょう~
2024年の日本人における死因順位は、第1位悪性新生物<腫瘍>、第2位心疾患(高血圧性を除く)、第3位老衰、第4位脳血管疾患で、肺炎が第5位、誤嚥性肺炎が第6位でした1)。透析患者さんにとって、感染症は命に関わる大きな合併症の一つです。近年は医療の進歩により、心不全などの心臓病による死亡は減少傾向にありますが、高齢化に伴い感染症による死亡は増加しています。透析を受けている方では、主な死因の第1位は「感染症」、次いでかつて長らく第1位であった「心不全」となっています。日本透析医学会が2026年に発表した最新の全国調査では、2024年末の透析患者さんの死亡原因として感染症がさらに増加し、その中でも敗血症と肺炎による死亡率が上昇していることが報告されました2)。肺炎で入院すると、体力が落ちて足腰が弱くなったり、認知症になる可能性もあり、心臓の病気や脳卒中の心配が高まることもあります。肺炎は高齢の方だけでなく、透析患者さんにとっても特に注意すべき病気であり、日頃から予防に取り組むことが大切です。
肺炎にはさまざまな原因がありますが、肺炎の原因となる細菌の中で、1番多いのが「肺炎球菌」です。肺炎球菌は肺炎だけでなく、血液中に菌が入り込む敗血症や髄膜炎など、重い感染症を引き起こすこともあります。透析患者さんは感染症を起こしやすく、重症化する危険性も高いことが知られています3)。そのため、国内外の感染症関連学会や専門家委員会では、透析患者さんを含むリスクの高い成人への肺炎球菌ワクチン接種が推奨しています4)。
2026年度からは、肺炎球菌ワクチンの制度が変更されました。本院所在地である世田谷区で定期接種に使用されるワクチンが、これまでの「ニューモバックス」から「プレベナー20」へ変更されています5)。この変更は世田谷区だけではなく、多くの自治体でも同様に行われています。
世田谷区では、65歳の方を対象に、自己負担5,500円で定期接種を受けることができます(原則として一生に1回)。ただし、これまでにニューモバックスなど高齢者肺炎球菌ワクチンを一度でも接種したことがある方は、定期接種の対象外となります。また、生活保護受給世帯など一定の条件に該当する方は、自己負担が免除されます5)。
一方、年齢や接種歴により定期接種の対象とならない方には、任意接種(自費)をご選択頂けます。本院では、定期接種で使用するプレベナー20のほかに、「キャップバックス」(CAPVAXIVE)も取り扱っています。キャップバックスは21種類の肺炎球菌の血清型に対応した結合型ワクチンで、プレベナー20では含まれていない近年、
キャップバックス接種対象者(こんな方にお勧めです)
・過去に肺炎球菌ワクチンを1度も接種していない方
・ニューモバックス(PPSV23)、プレベナー13・20(PCV13・20)、バクニュバンス(PCV15)を1年以上前に接種された方
もちろん、ワクチンを接種すればすべての肺炎を防げるわけではありません。しかし、肺炎球菌による感染症の発症や重症化を防ぐ効果が期待出来、透析患者さんにとって大切な予防医療の一つです。必要時マスク、換気、手洗い、口腔ケア、十分な栄養、インフルエンザワクチンなどとあわせて行うことで、感染症から身を守る力を高めることができます。インフルエンザワクチンと同様に、適切な時期に肺炎球菌ワクチンを接種することは、透析患者さんの肺炎などの感染症予防に役立つ重要な対策です。
感染症は、透析患者さんの「元気で長生き」を妨げる大きな要因です。本院では、皆さまがさらに安心して現在の外来維持透析を続けられるよう、肺炎球菌ワクチンの接種を積極的にお勧めしています。接種をご希望の方や、「自分は対象になるの?」「どのワクチンがよいの?」といったご質問がある方は、お気軽に医師またはスタッフまでお声がけください。
引用文献・参考
1)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai24/dl/gaikyouR6.pdf
2)中井 滋,菊地 勘,若井 建志,他.2024年末における透析有病率,罹患率,死亡率の推移分析.透析会誌.2026;59(5):305-319.
3)Sam R, Rankin L, Ulasi I, et al. Vaccination for Patients Receiving Dialysis. Kidney Med. 2024;6(3):100775. doi:10.1016/j.xkme.2023.100775.
4)Kobayashi M, Leidner AJ, Gierke R, et al. Expanded Recommendations for Use of Pneumococcal Conjugate Vaccines Among Adults Aged ≥50 Years: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices — United States, 2024. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2025;74:1-8.
6)Mueller PP, Jiang Q, Kaier K, et al. Health and economic impact of higher-valency vaccines including the 21-valent pneumococcal conjugate vaccine in Japanese adults. Expert Rev Pharmacoecon Outcomes Res. 2025;25(1):55-66.
