第161回 元気で長生き講座【2026年4月号】
~その「かゆみ」、放っていませんか?― 透析患者さんの皮膚掻痒症(かゆみ)と新薬を含む様々な治療―~
透析患者さんの代表的な合併症の一つに、「皮膚掻痒症(かゆみ)」があります。
「命に関わる症状ではないから仕方ない」と思われがちですが、実はこのかゆみ、決して軽く見てよいものではありません。
まず、透析患者さんのかゆみの実態についてです。調査では、透析患者さんの約7~8割がかゆみを経験していると報告されており、多くの方が日常的に悩まされている症状です1)。実際、かゆみによって眠れない、日中も集中できないといった、生活の質(QOL)への影響が大きいことが知られています。
さらに重要なのは、このかゆみが単なる不快症状ではなく、生命予後とも関係する可能性がある点です。
成田らの大規模研究では、透析患者においてかゆみが強い群は、生存率が有意に低く、死亡リスクが高いことが示されています2)。
また、強いかゆみを持つ患者の多くで睡眠障害が認められ、生活の質の低下とも強く関連していました。
この背景には、慢性的な炎症や栄養状態の低下、睡眠障害などが関与していると考えられています。つまり、かゆみは「単なる皮膚の問題」ではなく、全身状態の悪化を反映するサインの可能性があります。
では、このかゆみは治療できるのでしょうか。
従来は、保湿剤や外用薬、抗ヒスタミン薬などが中心でした。
2021年10月号の「元気で長生き講座」3)にて紹介しておりますが、大前らは、抗ヒスタミン薬の使用が心臓の左室リモデリングと関連することを報告しており4)、さらに透析患者さんを対象とした観察研究では、抗ヒスタミン薬使用群で生命予後が良好である可能性も示しています5)。
2020年のHerczらのコクランレビュー6)にて透析患者さんを含む計3285名の慢性腎臓病(CKD)が対象の58の論文のメタ解析が行われ、経口の抗アレルギー薬モンテカルスト、経皮カプサイシン、亜鉛などがかゆみ軽減に有効であることが示されています。翌2021年Yeamら7)が尿毒症性掻痒感に対する鍼治療、指圧などの補完代替療法や本院でも亜鉛含有胃薬(プロマック®)投与により積極的に行っている亜鉛補充などの21の治療の計34のRCT(無作為化割り付け試験)をメタ解析し、針治療、指圧、トウガラシ成分の経皮カプサイシンが有効で、ω-3脂肪酸(ロトリガ®)、亜鉛補充も限定的ではあるものの有効と報告しています。但し、亜鉛(Zn)補充の際には銅(Cu)欠乏への注意を要し、その予防にはココアの飲用が有用と考えられます。
また、本院でも多くの患者様がお受けになっているや治療時間の延長や血液流量(QB)を増加させたオンラインHDF実施により15名中13名でVASビジュアル・アナログ・スケールを用いた評価にて皮膚掻痒症が改善(平均改善率47.8%)したとの報告8)や十分な透析量の確保が可能となる長時間透析を3ヶ月以上行っている35名の患者に対する矢吹病院「愛Pod調査票ver3.4」9)を用いた自覚症状調査の結果かゆみを訴える患者がわずか17.1%のみと非常に少ないとの報告10)があります。
しかし、従来の治療では十分な効果が得られない患者さんも依然いらっしゃることも事実です。
そこで近年、新しい治療薬として登場したのが、ジフェリケファリン(コルスバ®)です。
大森らの研究では、従来治療で効果不十分であった患者に対して、この薬剤を使用したところ、かゆみの指標(WI-NRSスコア)が有意に改善し、約半数で大きな改善が得られたことが報告されています11)。
さらに、高橋らの研究では、経口薬ナルフラフィン(レミッチ®)からコルスバ®へ切り替えた患者で、中等度以上のかゆみに伴う不眠が大きく改善したことが示されています12)。
このような研究結果を踏まえ、現在ではかゆみの治療は体系的に整理され、段階的に治療を進める「治療アルゴリズム」が提案されています。
まずスキンケアや保湿を基本とし、効果が不十分な場合には内服薬抗ヒスタミン薬、さらに必要に応じて注射薬コルスバ®などへと進む流れです。
つまり現在は、「かゆみは我慢するもの」ではなく、評価して、治療するべき症状と考えられています。
本院でもこれまで、コルスバ®を使用されている患者さんを中心にかゆみの評価を行ってきましたが、今後はより多くの患者さんを対象に、かゆみの程度を確認し、必要に応じて新しい治療アルゴリズムに基づいた治療を行っていきます。
かゆみは、「あるかどうか」だけでなく、
・夜眠れない
・日中も気になる
・無意識にかいてしまう
といった生活への影響の程度が重要です。
透析治療と同じように、かゆみの管理も「元気で長生き」するための治療の一つです。
「仕方ない」と思わず、ぜひ一度ご相談ください。
※主な皮膚掻痒症治療薬
参考・引用文献
1)高橋直子,吉澤拓.透析皮膚瘙痒症の実態について―インターネットを介したアンケート調査報告―.透析会誌.2024;57(3):111-122.
2)Narita I, Alchi B, Omori K, et al. Etiology and prognostic significance of severe uremic pruritus in chronic hemodialysis patients. Kidney Int. 2006;69(9):1626-1632.
3)第112回 元気で長生き講座【2021年10月号】 https://www.jinnaika.com/archives/3944 ~ご家族や周囲の方もワクチン接種と感染対策継続の勧めと抗アレルギー薬の効果~
4)Omae K, Ogawa T, Yoshikawa M, et al. The use of H1-receptor antagonists and left ventricular remodeling in patients on chronic hemodialysis. Heart Vessels. 2010;25(2):163-169.
5)Omae K, Yoshikawa M, Sakura H, et al. Efficacy of antihistamines on mortality in patients receiving maintenance hemodialysis. Heart Vessels. 2017;32(10):1195-1201.
6)Hercz D, et al. Interventions for itch in people with advanced chronic kidney disease.Cochrane Database Syst Rev.2020;12:CD011393.
7)Yeam CT, et al. Complementary and alternative medicine therapies for uremic pruritus – A systematic review of randomized controlled trials.Complement Ther Med.2021;56:102609
8) 村岡 矢真人, 一川 泰祐, 吉田 孝恵ら.On-line HDF導入前後の透析量と臨床症状の変化について.腎と透析.2015;79巻別冊 HDF療法’15: 88-89.
9)矢吹病院「愛Pod調査票ver3.4」https://www.seieig.or.jp/aipod.html(2023/12/1)
10) 東 昌広.長時間透析の利点と問題点.透析医会誌.2024;39(1):13-21.
11)大森 俊.慢性腎臓病関連瘙痒症に対するジフェリケファリン酢酸塩の有効性に関する検討.透析医学会誌.2025;58(5):228-235.
12)Takahashi N, Yoshizawa T, Kumagai J, et al. Effectiveness of switching from nalfurafine to difelikefalin in patients with hemodialysis-associated pruritus: a prospective interventional study within a new treatment algorithm. Ren Replace Ther. 2025;11:58.

