人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

菅沼院長の元気で長生き講座
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腎内科クリニック世田谷
腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

第132回 元気で長生き講座【2023年8月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~長生きに繋がる可能性がありタンパク質を積極的に摂ることをお勧めします~

 

以前にも紹介しました1)が、20042006年の2年間の食事摂取状況と7年後の生命予後との関連について、血液透析(HD)患者346名を対象に調査した結果、生存群はエネルギー摂取量が高く、中でもタンパク摂取量が高いことが明らかになりました。タンパク質で最も多い血中アルブミン値が高い栄養状態が良い透析患者様程長生きであることも知られており、タンパク源となる食材摂取量の詳細な解析にて、生存群では魚介類や卵類、乳類では摂取量に差はなく、有意に肉類の摂取量が多いことが認められました。特に、動物性油脂類は、生存群で摂取量が約2倍有意に多いことが明らかとなっています。このように透析患者にとってタンパク質を十分に摂ることが生命予後に良い影響を与えることが分かっていますが、昨年そのことを裏付ける論文2が発表されましたのでご紹介いたします。

 

新潟大学医歯学総合病院血液浄化療法部の山本卓准教授が2022年に発表した研究報告2によると、12 か国にある施設(計8,805 人の HD患者)を対象に、「血中アルブミン 3.0 g/dLと低くかつリン6.0 mg/dLと高い患者に対して、食事性タンパク質摂取量 (DPI) (A) 増やすか、(B) 減らすか、変更しないことをお勧めしますか?」の質問を行い、 DPIの増加を推奨する医師の実践と全死因死亡率との関連性を分析した結果、DPI の増加をアドバイスする習慣がある施設の患者の血清クレアチニン(Cr)値が0.276 mg/dL高く、死亡率の低下と弱い関連性を示しました。この関連性は、70歳以上の患者でより強い傾向がありました。血中アルブミン値が低く、リン値が高い HD 患者に対してタンパク質摂取を推奨することは、HD 患者の栄養状態と転帰を改善するために重要である可能性があります。血液透析 (HD) を受けている患者は、栄養状態が悪いにも関わらず、高リン血症を認める可能性があります。残腎機能が喪失した透析患者においてはCr値が高い程筋肉量が多く生命予後良好が知られており、筋肉の元となるタンパク質摂取は推奨されるべきと考えられます。

 

第109回元気で長生き講座【2021年7月号】3で紹介しましたキューサイ株式会社の「100歳まで楽しく歩こうプロジェクト」にて、100歳以上の方100名とそのご家族を対象に行った生活実態調査では、元気な100歳以上の方の、1日33日間の食事内容を食事日誌に記録した結果、100人分の3日間の食事900食のうち、タンパク質をしっかりと摂取した食事は809食(約89.9%)にのぼりました。動物性タンパク質を含む食材が上位にあがっています。加えて、1食でタンパク質を多く含む食材が2品以上含まれていることもわかりました。タンパク質をしっかりと摂取する事が長生きに繋がることが考えられます。

 

ミネラルおよび骨の障害は、末期腎疾患の一般的な合併症です。特に、高リン血症は心筋、心臓の弁、動脈の石灰化(骨以外へのリンやカルシウムの沈着:異所性石灰化)を促進する可能性があります。高リン血症は、心血管死亡率および罹患率の高いリスクと関連しています。血液透析(HD)患者の平均血中リン値は 5.2mg/dL ですが、25% の患者の血清リン濃度は 5.5 6.9mg/dL です。透析患者は多くの薬剤を摂取していて、その半分はリン吸着剤です。週 3 回の HDによるリン除去は週あたり約 3,000mg です。しかし、食事摂取量は平均 7,000mg/週程度で、HDでのリン除去が食事摂取量を上回る可能性は低いです。そこで、食事療法とリン吸着剤は重要な介入ですが、それぞれに限界がありえます。複数のランダム化臨床試験では、透析量を増加させたHD が血中リン値を低下させることが示されています。頻回血液透析ネットワーク (FHN) 試験では、短時間毎日透析を行うスケジュールや毎日夜間の長時間透析を行うスケジュールにより、週 3 回のHDと比較して、血中リン値が低下しました。FHN試験の毎日群では、頻回のHDにより1日当たりのリン吸着剤投与量が有意に減少し、夜間群では、頻回HDにより患者の75%でリン吸着剤の中止がもたらされました。しかし、頻回HD は血中カルシウム(Ca)および副甲状腺ホルモン(PTH)濃度に有意な変化を認めませんでした。結論として、頻回 HD、特に夜間の長時間 HD は血中リン値を低下させ、リン吸着剤を減少させます4

 

タンパク質摂取によるリン(P)値上昇を心配される方もいらっしゃると存じますが、高P血症に対しては食事での加工品や乳製品等のPの多い食事制限よりも透析量(血流量や透析時間、特に週あたりの透析時間)の増加、次にP吸着薬内服をお勧めいたします。本院でも行っております在宅血液透析では毎日透析を行うことが出来多くの利点があります5。透析量、タンパク質摂取量や筋肉量が多い透析患者様が長生きされておられますので、しっかり透析を行って頂き、積極的な筋肉の元になるタンパク質の摂取と歩行等の運動にて筋肉量が維持又は増加し、元気で長生きにつながることでしょう!

 

<参考URL・文献>

1)第62回元気で長生き講座【2017年2月号】

2)S Yamamoto, B A Bieber, H Komaba, et al. Medical Director Practice of Advising Increased Dietary Protein Intake in Hemodialysis Patients With Hyperphosphatemia: Associations With Mortality in the Dialysis Outcomes and Practice Patterns Study. J Ren Nutr 2022 Mar;32(2):243-250. doi: 10.1053/j.jrn.2021.02.007. Epub 2021 Apr 2.

3)第109回元気で長生き講座【2021年7月号】

4)M Copland, P Komenda, E D Weinhandl, et al. Intensive Hemodialysis, Mineral and Bone Disorder, and Phosphate Binder Use. Am J Kidney Dis. 2016; 68(5S1):S24-S32. doi: 10.1053/j.ajkd.2016.05.024.

5)腎内科クリニック世田谷ウェブサイト 在宅透析