人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

菅沼院長の元気で長生き講座
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第151回 元気で長生き講座【2025年5月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~運動が困難な患者様もリハビリテーションが可能です【B-SESG-TES)の有用性】~

 

リハビリテーション医療にて、運動が困難な患者様へのアプローチは依然として大きな課題です。寝たきり、麻痺、サルコペニア、心血管疾患合併症など、さまざまな要因で「運動すべきだが運動できない」状態にある患者様は少なくありません。この問題に対して、新しい解決策として注目されているのが、B-SES(ビーセス)Belt electrode-Skeletal muscle Electrical Stimulation(=ベルト電極式骨格筋電気刺激法)です。

 

B-SESとは

 

B-SESは、ベルト型電極を下肢全体に装着し、電気刺激により随意運動を代替する技術です。広範囲にわたる筋肉(大腿四頭筋、ハムストリングス、下腿三頭筋など)へ一斉にアプローチし、筋力トレーニング(20Hz)と有酸素運動負荷(4Hz)の両機能を併せ持っています。従来のパッド式電極による局所的な神経筋電気刺激(neuromuscular electrical stimulationNMES)と比較し、痛みの少ない高出力刺激が可能であり、簡便な装着と高い治療再現性が特長です。

 

B-SESによる臨床効果

 

複数の臨床研究およびランダム化比較試験(randomized controlled trialRCT)により、B-SESは以下のような有意な改善効果が示されています。本院でも専用測定装置により測定可能な膝伸展筋力および握力の増加が血液透析患者を対象とした8件のNMES研究(221名)を含むシステマティックレビューとメタ解析にて報告1)されています。これにより、ADL(Activity of Daily Living:日常生活動作)自立に必要な基本的身体能力の底上げが可能となります。

 

さらに、1日歩数4000歩未満の高齢透析患者を対象としたRCTにて介入群で運動機能評価指標であるSPPBShort Physical Performance Battery)スコアが12週間後有意に改善2)SPPBは、歩行速度、バランス、椅子立ち上がり動作を評価する信頼性の高い指標であり、身体的フレイルや転倒リスク評価にも広く用いられており、本院でも実施可能です。

 

また、B-SESは糖代謝にも良好な結果をもたらします。糖尿病性腎臓病の血液透析患者にて血液透析中30分間のNMES実施12週後、血糖値およびグリコアルブミン(glycoalbuminGA)値の改善が認められ3)、糖尿病や透析患者様における血糖コントロールの補助療法としても期待されています。

 

血管内皮機能面でも、透析患者における本院でも測定可能な血流依存性血管拡張反応(Flow Mediated DilationFMD)値(%)の有意な改善(上昇)4や末梢循環指標である本院でも透析中に測定可能な皮膚灌流圧(Skin Perfusion PressureSPP)が著明に上昇した重症下肢虚血を合併した血液透析症例が報告5されており、足関節上腕血圧比(Ankle-Brachial Index:ABI)も上昇し、末梢動脈疾患(peripheral arterial diseasePAD)や血管内皮機能障害をもたらす動脈硬化の進行抑制にも寄与する可能性が示唆されています。

 

B-SESは、適応対象が広く、以下のような患者群に有効と考えられます。

 

・高齢者サルコペニア、フレイル患者

・透析中の運動療法が困難な維持血液透析患者

・ICU(Intensive Care Unit:集中治療室)入室中の重症患者に対する早期離床リハビリテーション

・整形外科術後の筋萎縮予防

・低活動状態の糖尿病、心血管疾患患者

 

B-SESには、現場での運用を支えるいくつかの良い特長があります。

モーターポイント(神経筋接合部)の正確な探索や特別な位置調整は不要で汎用性が高く、術者による差が出にくく、再現性が高いのも大きな利点であり、理学療法士(Physical Therapist:PT)だけでなく、看護師、作業療法士(Occupational Therapist:OT)、運動指導員でも施行可能で、ベルトを巻くだけで誰でもすぐに使用できます。

ベルト型電極で広範囲に刺激を分散し、強い電流でも不快感が少ない設計で、痛みが少ないのも大きな利点です。

 

B-SESは、運動不能の患者様に対しても「運動の恩恵」を届けるための画期的な技術です。筋力向上、運動機能改善、血糖・血管内皮機能の改善効果がエビデンスとして積み重ねられており、今後、リハビリテーション医療における標準的手段の一つとしてさらに普及が期待されます。

 

運動できないことに起因する転倒、糖尿病や動脈硬化等のリスクを低減し、誰もが「動き続ける未来」を目指す。B-SESはそのための確かな一歩となっています。この度本院でもB-SESによる総合治療用電気刺激装置「General Therapeutic Electrical Stimulator:G-TES」(ジーテス)を導入しましたので、血液透析実施中のリハビリテーションを希望される患者様は是非本院スタッフ迄お申し出下さい!

 

参考文献

1) Pedro L Valenzuela, Javier S Morales, Luis M Ruilope, et al. Intradialytic neuromuscular electrical stimulation improves functional capacity and muscle strength in people receiving haemodialysis: a systematic review.J Physiother. 2020 Apr;66(2):89-96.

2) Midori Homma, Misa Miura, Yo Hirayama, et al. Belt Electrode-Skeletal Muscle Electrical Stimulation in Older Hemodialysis Patients with Reduced Physical Activity: A Randomized Controlled Pilot Study. J Clin Med. 2022 Sep 28;11(19):6170.

3) Tomoki Tsurumi, Yuma Tamura, Yuki Nakatani, et al. Neuromuscular Electrical Stimulation during Hemodialysis Suppresses Postprandial Hyperglycemia in Patients with End-Stage Diabetic Kidney Disease: A Crossover Controlled Trial. J Clin Med. 2022 Oct 22;11(21):6239.

4)森和之,田村靖明,出口憲市, 他.透析患者に対する透析中のベルト電極式骨格筋電気刺激が 血管内皮機能に及ぼす影響.理学療法科学 第27巻:78-81,2020

5)西本篤史, 玉谷高広, 祖地香織, 他.重症下肢虚血を合併した血液透析症例に対するベルト電極式骨格筋電気刺激療法の効果.四国理学療法士学会誌 (40)144-145,2018