第93回 元気で長生き講座【2020年2月号】
~しっかり透析や長時間透析は認知症予防につながります~
年齢を経るとともに、もの覚えがわるくなったり、人の名前が思い出せなくなったりしますが、これは加齢による脳の老化が原因です。しかし、認知症は加齢によるもの忘れとは違い、何かの原因によって脳の神経細胞が壊れるために起こる症状や状態をいいます。そして認知症が進行すると、だんだんと理解力や判断力がなくなって、社会生活や日常生活に支障が出てくるようになります。認知症の最大の原因が加齢であり、認知症は誰にでも起こりうる身近な病気です。現在では日常的に「認知症」という言葉を使っていますが、認知症は病名ではなく、症候群です。認知症は、記憶障害のほかに、失語、失行、失認、実行機能の障害が1つ以上加わり、その結果、社会生活あるいは職業上明らかに支障をきたし、かつての能力レベルの明らかな低下が見られる状態と定義されています。
老化による物忘れ | 認知症 | |
原因 | 脳の生理的な老化 | 脳の神経細胞の変性や脱落 |
物忘れ | 体験したことの一部を忘れる (ヒントがあれば思い出す) |
体験したことを丸ごと忘れる (ヒントがあっても思い出せない |
症状の進行 | あまり進行しない | だんだん進行する |
判断力 | 低下しない | 低下する |
自覚 | 忘れっぽいことを自覚している | 忘れたことの自覚がない |
日常生活 | 支障は少ない | 支障をきたす |
認知症は、その原因となる疾患によりいくつかに分類されます。認知症の半分以上を占めるのが「アルツハイマー型認知症」です。他にも“脳血管性認知症”や“レビー小体型認知症”などがあります。
認知症の中で最も多いアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞に「老人班」と呼ばれるシミのようなものが広がり、神経細胞が死滅することが原因です。この老人班を生み出す元凶は、脳内に蓄積されたアミロイドβ(Aβ)というたんぱく質です。血液透析患者様では、透析を行っていない方と比べて大脳皮質内のAβ沈着が少なく、透析がAβの蓄積を抑制している可能性をKitaguchi Nらが報告(J Artif Organs. 21(2):220-229, 2018)しています。透析患者と非透析患者の脳細胞数を、染色法を用いて計測したところ、透析患者の方は有意に老人班が少なく、血液透析によってAβが血中から除去され、血液中の濃度が下がったことにより、脳内のAβが血液中に引き出された可能性があるため、としています。
血液透析患者と健常者の頭部MRIを比較した検討では、どの年齢においても透析患者の方が、有意に脳萎縮が進んでおり、Mizumasa Tらが、透析中に血圧が低下する透析低血圧の回数が多いほど脳萎縮を認める事を報告(Nephron 97: c23-c30, 2004)しており、Jassal SVらは、除水が緩徐となり透析中の血圧低下が防止される長時間透析に移行し、認知関連機能や集中力が改善したと報告(KI 70(5): 956-962, 2006)し、Ercan Okらは、8時間の長時間透析で記憶力が改善したと報告(NDT 26(4) : 1287–1296, 2011)しています。
また透析歴と認知症発症率との関係では、透析歴が長いほど認知症合併率は低いことが示されており(日本透析医学会 統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況(2010年末現在))、透析治療自体が認知症を促進するものではない可能性も示唆されています。以上より、運動、知的活動やコミュニケーションに加え、十分な透析量を確保することや長時間透析が認知症予防にもつながる可能性があります!