人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

腎内科クリニック世田谷
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菅沼院長の元気で長生き講座
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第159回 元気で長生き講座【2026年2月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

CKD-MBD(慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常)の治療について 考え方や目標値が新しくなりました― 

 

このたび、日本透析医学会が示している腎臓の病気(慢性腎臓病:CKD)に伴う骨・ミネラル(リン・カルシウム・副甲状腺ホルモンなど)代謝異常の治療方針が見直されました。20251226日に日本透析医学会サイトに公開となった今回の改訂1では、「考え方が変わった」だけでなく、治療の目標値や、何を重視するかの点が、よりはっきりと変わっています。

 

これまでの治療では、「リン(P)はこの範囲に収めましょう」「カルシウム(Ca)はこの数値以下にしましょう」「副甲状腺ホルモン(PTH)はこの範囲が望ましい」といったように、多くの患者さんに同じ目標値を当てはめる方法が基本でした。しかし、年齢や栄養状態、維持透析に至った原疾患等は患者さんごとに大きく異なります。そのため、同じ数値でも、ある方にとっては治療が必要で、別の方にとっては無理に下げなくても良い場合もありえます。

 

新しい方針では、この点を重視し、「数値がいくつか」で判断することに加え、「その人にとって意味があるかどうか」も考慮の上治療方針を決める考え方に変わりました。その結果、検査値が以前と同じでも、患者さんによって治療内容や説明が変わることがあります。

 

副甲状腺ホルモン(PTH)については、特に考え方の変化が明確です。以前は無形成骨への懸念から「PTH60 pg/mL未満にならないように注意しましょう」と説明されることがありましたが、最近の国内の透析患者さんを対象とした大規模な調査から、Ca受容体作動薬(カルシミメティクス)投与によりPTHがより低い状態になっていても、むしろ骨折のリスクが低く2)生命予後も良好3)が明らかとなりました。そのため今回の改訂で、一律に下限の数字を決めることはせず、骨折のリスク、年齢、使っている薬の種類などを見ながら、患者さんごとに適切な範囲を判断する方針に変わりました。上限値についてはPTH240pg/mL未満を目標とする方針は踏襲されています。

 

現在、多くの透析患者さんが使用しているPを下げる薬※注1や、副甲状腺の働きを抑える薬※注2についても、実際の治療に合わせて考え方が整理されました。特に、副甲状腺の働きを抑えるCa受容体作動薬は効果が強く、PTHをよく下げる反面、Caが下がりすぎることがあります。そのため、新しい方針では、これまでよりも安全性に配慮した基準で使用することが勧められています。治療を始めた後に、血液検査の回数が増えることがありますが、これは安全のためです。

 

また今回の改訂では、骨折の位置づけがこれまで以上に重要になりました。骨折は痛み(疼痛)や不自由さだけの問題ではなく、日常生活にも大きな影響を与え、その後の生活の質や寿命にも関わる出来事と考えられています。そのため、本院でも定期的に実施している骨密度検査の結果や、低値ほど生命予後良好や骨折が少ないことが明らかとなっている血液検査の「ALP(アルカリフォスファターゼ)」の数値にも注意を払い、骨がもろくなっていないかを早めにチェックする体制を勧めています。骨粗鬆症の予防や進行抑制のためにも転倒には十分注意しながらの歩行を含む運動療法も引き続きお勧めいたします。

 

このように、新しい治療方針では、「数値を下げる」ことに加え、安全に、無理なく、将来のリスクを減らすことを目的に治療を行います。

 

Caも、具体的な目標値の見直しがあります。これまでは「10 mg/dL未満」が一つの目安でしたが、最新の解析では、9.5mg/dLを超えるあたりから心臓や血管に関係するリスク(生命予後や異所性石灰化)が高くなることが確認されました。そのため、これまでの目標値8.410mg/dL8.49.5mg/dLに上限値が引き下げられました。

 

生命予後との関連が強いPも、具体的な目標値の見直しがあります。これまでは「6 mg/dL未満」が一つの目安でしたが、慢性維持透析患者さんの冠動脈石灰化の進行に、鉄含有P吸着剤(スクロオキシ水酸化鉄:ピートル)と鉄非含有P吸着剤(炭酸ランタン:ホスレノール)のどちらが影響するかを比較した大規模な臨床試験の「エピソード試験(EPISODE)」4で、P濃度を厳格にコントロールすることが生命予後と関連する冠動脈石灰化抑制に繋がることが明らかとなり、これまでの目標値3.563.55.5mg/dLに上限値が引き下げられました。高P血症是正のためには、まずは透析量(透析時間や血液流量:QB)の増加、次にP低下薬、3番目に考えて頂きたい食事でのP摂取制限は栄養状態を考慮の上行うべきと考えます5。透析時間については、200人の血液透析患者を透析時間延長群(週24時間以上)および標準群(おもに1215時間、最大18時間)に振り分け12ヶ月間観察したRCT(ランダム化比較試験)にて,前者で有意に血清P値が低下することが示され6、透析時間延長群で、P吸着薬の投与量が有意に少ないことも示された7ことが、本ガイドライン1にて紹介されています。

 

検査値やお薬について、「前と説明が違う」「以前は様子見の数値なのに、今は治療を勧められた」と感じることがあるかもしれません。しかしそれは、治療をいい加減にしているのではなく、患者さん一人ひとりにとって意味のある、より良い治療を選ぶための変更です。

 

気になることや、不安に思うことがあれば、どうぞご遠慮なく医師やスタッフにお声かけください。私たちは、数値だけでなく、患者さんの生活や将来を一緒に考えながら治療を進めていきたいと考えています。

 

※注 文中に出てくるお薬について

 

1 Pを下げる薬(P低下薬)8

食事から体に吸収されるPを減らすための薬です。Caを含むもの、含まないもの、鉄を含むもの、腸でのP吸収を抑えるものなど、いくつかの種類があります。新しいガイドライン1には「P 低下薬に関しては,生命予後や血管石灰化リスク以外にも,消化器症状,血清Ca値,pH,鉄動態,ポリファーマシーの問題,併用薬剤なども考慮に入れて選択する」と記載されており、クエン酸第二鉄(リオナ)による代謝性アシドーシス是正効果9を国内透析関連トップジャーナル日本透析医学会誌で報告しており、本院では血液ガス検査結果での重炭酸濃度の結果も考慮の上P低下薬の選択を行っています。

【経口剤:カルタン・リオナ・ピートル・フォスブロック・レナジェル・ホスレノール・キックリン・フォゼベル】8

 

2 副甲状腺の働きを抑える薬:Ca受容体作動薬

副甲状腺ホルモン(PTH)を低下させ骨折のリスクが低下する薬です。飲み薬と注射薬があり、唯一PTHのみならず、CaP双方も低下させる効果がある薬です。

【錠剤:オルケディア  注射剤:パーサビブ・ウパシタ】

 

参考・引用文献

1)日本透析医学会.慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常の診療ガイドライン(2025年改訂版).透析会誌.2025

2)Komaba H, Imaizumi T, Hamano T, et al. Lower parathyroid hormone levels are associated with reduced fracture risk in Japanese patients on hemodialysis. Kidney Int Rep 2024;9:2956-69. Correction in: Kidney Int Rep 2025;10:2495.

3)Goto S, Hamano T, Taniguchi M, et al. Patient characteristics modify the association between changes in mineral metabolism parameters and mortality in a nationwide hemodialysis cohort study. Sci Rep 2025;15:8089. 20.

4)Isaka Y, Hamano T, Fujii H, et al. Optimal phosphate control related to coronary artery calcification in dialysis patients. J Am Soc Nephrol 2021;32:723-35.

5)第139回 元気で長生き講座【2024年4月号】~本院お二人目の超長期透析歴50年達成の方がいらして、タンパク質等をしっかり食べてリン(P)管理は長時間透析やP低下薬内服をお勧めします~

6)Jardine MJ, Zuo L, Gray NA, et al. A trial of extending hemodialysis hours and quality of life. J Am Soc Nephrol 2017;28:1898-911.

7)Zhan Z, Smyth B, Toussaint ND, et al. Effect of extended hours dialysis on markers of chronic kidney disease-mineral and bone disorder in the ACTIVE Dialysis study. BMC Nephrol 2019;20:258.

8)第140回 元気で長生き講座【2024年5月号】~紅麹コレステヘルプに関連した腎障害患者様における検査データ異常と高リン(P)血症治療薬一覧~

9)菅沼 信也, 阿部 達弥, 西澤 喬光, 正木 一郎.クエン酸第二鉄の血液透析患者における有用性.透析会誌51巻10号:p607~615,2018