人工透析・糖尿病専門外来 千歳烏山駅北口

菅沼院長の元気で長生き講座
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腎内科クリニック世田谷
腎内科クリニック世田谷
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山4-21-14

第124回 元気で長生き講座【2022年11月号】

菅沼院長の元気で長生き講座

 

~本院の患者様が透析歴50年!を迎えられました~

 

本院で透析を受けられているF様が、2022年で透析歴50年(1972年~)を迎えられました。先日50年をお祝いして本院からささやかなプレゼントを贈らせていただきましたが、大変喜んでくださいました。

 

F様との思い出は多数あります。本院へいらして、前希釈オンライン血液透析濾過(on-line HDF)開始後「肌の色が白くなった」と伺いました。とても嬉しかったです。柴田らは維持透析患者10例を対象とした結果で通常透析(HD)から前希釈on-line HDFへ移行後2ヵ月で分光測色計(CR-400:コニカミノルタ社製)を用いて定量的に測定した皮膚色明度の有意な上昇、すなわち皮膚色は白くなったが、一方観察例は1例しかなかったものの、on-line HDFから通常透析へ移行した患者では皮膚色が半年以降には黒くなったこと(皮膚色明度の低下)を報告1しています。本院で2012年に透析歴40年を迎えられた際、東京都腎臓病患者連絡協議会(東腎協)で表彰された会に菅沼も招いて頂き、F様は素晴らしい笑顔を見せていらっしゃいました。あれから、更に本院で10年、、。

 

F様を含む透析歴40年以上の本院超長期on-line HDF患者3名の成績を調査し、既報の新潟市の信楽園病院腎センターの超長期透析患者102と比較検討した結果、本院超長期on-line HDF患者様の方が有意に透析量の指標であるKt/Vヘモグロビン(Hb)やアルブミン(Alb)値が高値で、透析量が多く貧血管理や栄養状態が良好を報告(表)3しています。昨年の取材にてF様をご紹介し「透析歴49年の「ベテラン患者」も通う、元気で長生きできる透析医療の秘密」と題した記事をダイヤモンドオンラインに掲載して頂きました。

 

F様もCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)ワクチンを接種(医療従事者である私も今年は実家の菅沼病院でインフルエンザ予防接種を終え5回目(オミクロン株対応ワクチン)も受けます!)され、不織布マスクもきちんとされておられ、COVID-19に罹患されることもなく、透析歴50年の日を迎えられました。

 

F様にお好きなお食事を伺ったところ、「肉」と即答されました。第62回元気で長生き講座(2017年2月号)にて東京医科大学病院腎臓内科教授菅野義彦先生が肉類を多く摂取されている透析患者様が長生きされていたことを報告しておられましたことを紹介させて頂いたことを思い出しました。中でも心臓の機能、貧血や下肢つり等の改善効果が報告されているカルニチンを多く含む赤身肉がお勧めです。

 

F様にここまで長く続けてこられたコツは何でしたか?と伺ったところ、しばらく考えた後に発せられたお言葉は「辛抱」でした。「何が透析を50年続けてこられた原因となったかと言われると、結局色々なことを辛抱して来たからだと思います。週3回の透析、穿刺の痛み、通院に要する時間、その他そういった様々なことを続けてきたことが今に繋がっているのだと思います。」

 

F様は元々ギタリストで、ご自身のバンドを持ち、ラテン音楽を主に演奏していらっしゃったそうです。手の大きいF様はアコースティックギターよりもネックの太いクラシックギターを手に、明るくてテンポの良い音楽を好んで演奏していらっしゃったそうです。19961025日東京都腎臓病患者連絡協議会(東腎協)の会報誌No115では、東腎協が開催した個人会員交流会でFさんが「バラが咲いた」「故郷」など6曲を演奏され、会員の方全員で大合唱をして盛り上がったという記事が掲載されています。当時はよく依頼されて演奏をされていたそうです。当時のことを思い出して次のように話されていました。

 

「やっぱりだんだん歳をとってくると体が思うようにいかなくなって、ギターは止めざるを得なくなりました。手や指が思うように動かなくなってきたんですね。今思うともう少し続けられていればと後悔しています。色々な場所でたくさん楽しい思いをしました。何百人も入る大きなホールで演奏したこともあります。あの頃本当に自分は輝いていたなと思います。」

 

遠くを見つめながら語られます。

 

「少しね、手が不自由になったとしても続けていれば、今よりはもっといろいろと見識が深まっていたと思うんですね。つらいことがあったとしても辛抱する、続けるということは本当に大事なことだと思います。そういう意味で何が透析50年を迎えた原動力になったのかと言えば、ただ続けたことだと思います。」

 

辛抱という言葉は「辛さ(つらさ)を抱く」と書きます。それは只々嫌なこと苦しいことを我慢をする、耐えるということではなく、自身が置かれている状況を受容し、そんな自分自身を抱き続けることなんですよと言われている気がしました。人としての強さを感じましたし、生きるとは、ということを考えさせられた瞬間でした。

 

「辛抱する」を英訳すると「be patient」と出てきます。奇しくも「patient」は「患者」。同じ状態の人間を指す言葉であるにも関わらず、患者は「病気を患っている者」という心身の状態を表す意味合いに対し、英語圏では「辛抱している者」という心の向き合い方に重点を置く意味合いとなっています。日本で医療に携わる我々としても、この視点を含めて患者様を診る必要があることを改めて感じました。

 

手の不自由さの原因として多くの長期透析歴患者様で認められる透析アミロイドーシス(DRA)が考えられます。DRAの原因としてβ2マイクログロブリン(β2-MG)の蓄積が言われており、血清β2MG値低値の透析患者様程長生きされており45、β2-MG除去にはon-line HDFや手根管症候群(CTS)に対する手術(手根管開放術)を受けた透析歴10年以上のDRAと診断された患者様が保険適応となるβ2-MGを吸着する吸着型血液浄化器リクセルが有効とされており、on-line HDFとリクセル併用療法による効果も報告67されてきており、F様にも現在行っております。重松らは第36回ハイパフォーマンス・メンブレン研究会にて、オンラインHDFと吸着型血液浄化器リクセルの併用治療にてリクセル接続位置の違いがβ2-MG除去効率に与える影響について、長期透析患者7名を対象に検討した結果、リクセルを前接続するよりも後接続した方が除去効率は向上し、β2MG除去率の有意な高値及び治療後の有意なβ2MG値低値を報告8しています。重松らの報告を受けF様を含め本院でのリクセル接続は全員後接続としています。

透析歴50年の方を腎内科クリニック世田谷から輩出できることも目標かつ夢でしたので、その夢も叶い嬉しいです。本院へご通院頂いておりますF様のお陰ですので、心より感謝申し上げたいと存じます。今後も多くの皆様に「元気で長生き」して頂き、維持透析患者様におかれましては長期透析歴も目指して頂きたいと考えております!

 

 

参考文献

1)柴田 昌典,多和田 英夫. 透析患者の皮膚の明度に対するon-line HDFの効果.腎と透析2009;67巻別冊 HDF療法’09 :49-51.

2)鈴木正司, 島田久基, 宮崎 滋, 他.超長期透析患者の実態.日本透析医会雑誌2016;31:43-52.

3)菅沼 信也, 阿部 達弥, 正木 一郎. クエン酸含有無酢酸重炭酸透析液を用いた高血液流量HDF療法.腎と透析2019;87巻別冊 HDF療法’19:51-53.

4)Cheung AK, Rocco MV, Yan G, et al. Serum beta-2 microglobulin levels predict mortality in dialysis patients:results of the HEMO study.JAm Soc Nephrol 2006;17:546-55. 

5)日本透析医学会統計調査委員会:わが国の慢性透析療法の現況(2009年12月31日現在).日本透析医学会, 2010 http://docs.jsdt.or.jp/overview/pdf2010/p066.pdf

6)重松 武史, 上村 健登, 西庵 良彦,他. 前希釈オンラインHDFとリクセル併用療法の臨床効果.兵庫県透析従事者研究会会誌2017;40:20-24.

7)加藤 亜輝良, 浦辺 俊一郎, 加藤 基子,他. 長期透析患者にon-line HDF+リクセル併用を10ヵ月施行した1症例.腎と透析2021;91巻別冊 HDF療法’21:162-164.

8)重松 武史,中村 拓生,宮本 幹,他. On-line HDFにリクセルを併用した際のリクセル接続位置の違いによるβ2-MG除去効率の比較.腎と透析2022;92:345-349.